【相続コラム7】「家族信託」と金融機関・保険会社の「信託」の違いとは?
高齢の親の金銭管理をどうすべきか?
親が高齢になって来ると次第に考えなければいけない問題になるかと思いますし、高齢者本人もお金の管理が不安になってくることもあるでしょう。
また、子がいなかったりずっと独身の叔父・叔母がいる場合でも同じ悩みを抱えることになるかも知れません。
高齢者が独居であったり、高齢夫婦のみで生活している場合は特にその問題が顕著になってくることが考えられます。実家がすぐ近くであれば、まだ対応もできるかも知れませんが、遠方で生活している場合は尚更不安が大きくなると思います。
家族信託は、将来的に判断能力を失ってもスムーズに財産管理できるように、委託者と呼ばれる財産を託す本人が、受託者と呼ばれる管理者に財産管理を委託して、自分や配偶者の生活・介護・医療等のために、託した財産を管理・運用してもらう、というのが基本的な構造です。
一方信託銀行に代表されるように、「信託」という言葉自体は古くからありますので、信託そのものについてはイメージが湧きやすいのではないでしょうか。
では、家族信託と金融機関の信託はどこが違うのでしょうか?
金融機関や保険会社等の信託は、総称して「商事信託」と呼ばれます。
ビジネスとしての信託という意味であり、一般的な信託のイメージとしてはこれだという方も多いと思います。(一方、家族信託は商事信託に対して「民事信託」という呼ばれ方もします。)
金融機関が信託を行う目的というのは、当然ですが利益を挙げることなので、財産の管理・運用を任せることにより、信託報酬などの手数料を彼らに支払うことになります。
財産を託す側(顧客)の目的は、資産運用により利殖することなので、プロに運用を任せることで少しでも資産を増やしたいというニーズがそこにはあります。
その一方、家族信託の最大の目的は、財産を増やすことではありません。
財産管理を適切に行うことによって本人や家族に良好な生活・介護・療養の環境をもたらし、将来的な財産承継(相続)も円満に行うことがその目的です。特別な取り決めをしない限り家族間で信託報酬が発生することもありません(相続税対策のために、わざと家族間で手数料を発生させることもあります)。もちろん運用によって資産を増やすこともあるかと思いますが、それは第2、第3の目的です。
老人ホームの毎月の利用料、入院した際の病院の入院・治療費、固定資産税などの税金の支払い、自宅売却による介護費用の捻出、など状況に応じて柔軟に活用することができます。
これが家族信託と商事信託の違いです。そもそもの目的が違いますので、構造としては似ていますがまったく別のものと考えてください。
ここで大きな注意点があります。
最近は、信託銀行に限らず、通常の都市銀行、地方銀行、保険会社、証券会社などから「信託」と名のついた商品がいろいろ販売されていますし、中には「家族信託」と銘打った商品もあります。
しかし、それらはすべて「商事信託”商品”」であり、「家族信託(民事信託)」ではありません。
商事信託と家族信託を見分けるポイントとしては、受託者(管理・運用を託された者)が誰であるかという点です。受託者が銀行や保険会社等であれば商事信託なので、いくら「家族信託」という名がついていたとしても、それは商事信託の金融商品です。商事信託である以上、管理・運用の権限があるのは金融機関になりますので、他の家族がそれについて口を出す権限はありません。
本来の家族信託の場合、信託された金銭の管理のために預金口座(通常の普通預金口座でも十分です。信託銀行の口座である必要はありません。)くらいは使用しますが、あくまで家族間での財産管理の仕組みなので、金融機関等を介在させる必要はありません。
本来の家族信託の受託者は、あくまで委託者本人が信任した家族(子、配偶者、兄弟、甥・姪など)ですし、そもそも商品ではなく仕組みなので、手数料が発生するということもありません。
管理を託された子などの判断によって、自由に財産を動かすこともできます。
もちろん商事信託にもメリットはたくさんありますので、検討する場合は商品の内容をじっくり吟味した上で決めるべきだとは思いますが、少なくとも家族信託との違いはしっかりと意識してください。