【相続コラム6】不動産の生前贈与のメリット・デメリットは?その2
司法書士の本松です。
前回は、不動産を生前贈与した場合のデメリット(主に税務面)について詳しく話をしました。
今回は、それでも不動産の生前贈与が有効なケースについてお話しします。
1.「かなりの」資産家の相続税対策
2.家族仲が最悪な場合の“争族”対策
3.相続人以外に贈与する場合
もちろん他のケースも考えられますが、代表的なものとしてはこの3つを挙げてみました。順に説明していきます。
ケース1.「かなりの」資産家の相続税対策
前回話したとおり、不動産の生前贈与は、相続による名義変更に比べて、登録免許税や不動産取得税が間違いなく高額になってしまうため、税務上のデメリットが生じてしまいます。
しかし、自宅ではなく収益物件(賃貸マンション・アパート、貸地、貸駐車場など賃料を生む物件)の生前贈与を考える場合、少し事情が異なってきます。
収益物件を所有していると毎月賃料収入を得ることになります。もちろん、賃料収入に対して所得税が課税されますし、賃料収入によって増えていった現預金は、所有者が亡くなった際の将来的な相続税の計算に組み込まれます。
賃料収入があまり高額ではなかったり、生活費や物件の維持費、または建築資金のローン返済などで賃料収入が費消されていく場合は、あまり気にする必要はありません。
しかし、賃料収入が大きくローンもない場合など「持っているだけでお金がどんどん貯まっていく」状況であれば、資産が膨らんでいってしまい、最終的に亡くなった際の相続税も増えてしまいます。
また、その他の収入を合わせた収入全体が高い場合は、所得税の税率も高くなってしまいますので、なるべく収入を下げて所得税を節税したいという要望もあるかも知れません。
そのような場合、例えば子・孫へ収益物件の生前贈与を行った場合、その後の賃料収入は子・孫のものになります。その後の賃料収入によって将来的な相続財産の膨張を抑えることもできますし、所得税も抑えられます(その代わり子・孫の所得税は増えてしまいます。)。
一時的に発生する登録免許税、不動産取得税(どちらも一度支払うだけです。毎年発生するわけではありません。)、贈与税や将来的な相続税の額、贈与を受けた側の所得税の増加分などを、総合的にシミュレーションする必要があるかと思いますので、税理士のアドバイスのもとで行うべきだと思います。
贈与してから亡くなるまでの経過年数が多ければそれだけ効果も大きくなりますので、決断は早めに行うことをお勧めします。
ケース2.家族仲が最悪な場合の“争族”対策
不動産の所有者が亡くなった場合、相続人全員で協議の上、その不動産を相続する人を決定します。しかし家族仲が悪い場合は話がまとまらないので、家庭裁判所で調停等の手続きをしなくてはならなくなるケースもあります。そうならないためにも、遺言書を残しておいて、遺産分割方法をあらかじめ指定しておくという対策が必要です。
一般的にはこれで十分な対策とも言えますが、家族仲が最悪な場合は、さらに注意が必要です。
考えられるリスクとしては、「遺言書の書き直し」です。遺言書はその本人が亡くなるまでは、何度でも書き直すことができます。せっかく遺言書を作成しても、それを知った他の相続人が本人に強く詰め寄り、結果的にその意向に即した遺言内容に書き換えさせてしまう可能性もあります。
また、遺言書の内容によっては他の相続人の協力が必要になることもあります。不動産を共有で相続させるという内容の遺言書があった場合、不動産を取得する相続人全員で登記手続きをする必要がありますので、協力を得られないと、実体的には相続しているのにそれに即した名義変更(不動産登記)ができない、ということにもなり兼ねません。
一方、不動産の生前贈与は、所有者と贈与する相手との2者ですべての手続きが可能です。他の家族の同意は必要ありません。しかも遺言のように所有者が亡くなるのを待つ必要もなく、すぐに手続きができてしまいます。
税務上のデメリットはあるにしろ、確実に名義変更ができる手段と言えます。但し、将来の相続発生時に遺留分減殺請求を受けたり、特別受益に当たると主張されたりするリスクは残ってしまいますので、相続争いが生じた際に金銭的な負担は生じてしまうかもしれません。
3.相続人以外に贈与する場合
不動産を相続する場合は、相続人以外の人は相続できません。もしそれ以外の人の手に渡したいのであれば、遺言書でその人に遺す旨記載する(遺言者で相続人ではない人に遺すことを「遺贈」と言います。)か、生前に贈与や売買等で渡すしかありません。
遺言書で遺贈する場合は2と同様のリスクがありますし、売買の場合は普通の取引となってしまいます。なお、市場価値とかけ離れた安い金額で売買してしまうと、税務上、事実上の贈与と捉えられて課税対象となってしまいますので、注意が必要です。
贈与する相手は、相続人ではない親族(いとこや相続人ではない孫、甥・姪など)、親族関係にない友人または法人(株式会社や一般社団法人など)、いろいろ考えられると思います。
他に相続人がいる場合は、ケース2と同様に将来的な遺留分減殺請求を受けるリスクもありますが、すぐに不動産を相手に渡せる確実な方法と言えるでしょう。
ケース2、3については生前贈与を行うよりも遺言書にて相続させるまたは遺贈するケースの方が一般的だとは思いますが、事情があってすぐに名義を変えたい場合や、ケース1の事情も関係している場合などは、不動産の生前贈与が有効な選択肢になり得ると思います。
これら以外のケースでも、物件の評価額が低額で、納税額を計算してもそれほど大きな金額にならない場合など、生前贈与を検討しても良いケースはあると思います。生前贈与は、相続や信託などと違ってわかりやすい概念なので、ついつい深く調査せずに行ってしまいがちですが、その分いろいろな落とし穴が待っています。
「こんなはずじゃなかった」と後悔することがないように、まずは専門家に相談してから手続きの検討を行うことをお勧めします。