【相続コラム5】不動産の生前贈与のメリット・デメリットは?その1
司法書士の本松です。
ご自宅や所有している賃貸アパート・マンション、駐車場などを、配偶者や子・孫などに贈与したいという相談をよく受けます。
しかし、生前贈与には気を付けなければいけない点がたくさんあります。
特に不動産の生前贈与の場合は、税務面で検討すべきポイントが多く、気を付ける必要があります。
そのため、相談者から相談を受けて詳しく説明した結果、生前贈与ではなくて遺言公正証書の作成や家族信託の方針に変更することも少なくありません。
あくまで私の実務上の経験からの意見ですが、不動産の生前贈与を検討すべきなのは次の3つのケースに絞られます。
1.(不動産をたくさん所有しているという意味での)資産家の相続税対策
2.家族仲が既に決裂している家庭の“争族”対策
3.相続人以外(相続関係にない親族、友人、会社など)に贈与する場合
3つのケース以外では、生前贈与ではなく他の方法(相続など)によって名義を変更した方が税務面でメリットがあることが多いです。
不動産の生前贈与を検討する際に、次の3つの税金を考える必要があります。
1.贈与税
2.登録免許税
3.不動産取得税
当事務所にご相談に来る人では、贈与税については自分であらかじめ調べている人が多いように感じます。
夫婦間での贈与や、親から子や孫への贈与では控除の制度などがありますので、場合によっては贈与税自体は抑えられます。
しかし、不動産に関する税金は贈与税だけではないので、その他の税金を考える必要もあります。
それが、登録免許税と不動産取得税です。
不動産の名義変更時には、「所有権移転」という不動産登記を行います。相続による所有権移転の場合は、対象物件の固定資産評価額の0.4%の登録免許税が課税されます(遺言書の有無は関係ありません)。一方、「贈与」の場合は、登録免許税の税率が2.0%になってしまいます。相続の場合と比べると、5倍もの課税がされてしまうのです。これは贈与する側される側の関係性がどうであろうが一切関係なく、贈与による移転であれば、どの場合でも2.0%の税額を納める必要があります。
また、不動産を贈与により取得すると、不動産取得税が課税されます。詳しい説明は省きますが、固定資産評価額の1.5%から4.0%の税が発生してしまいます。不動産の贈与を行ってから数か月後に、県税事務所等から送られてくる納付書にて支払うことになります。
相続により不動産を取得した場合は、不動産取得税は0円です。そもそも課税対象ではないので、物件の評価額の高低は一切関係ありません。
例えば評価額が1500万円の土地と1000万円の建物につき、相続する場合と贈与する場合で考えてみましょう。
相続の場合は、土地・建物の評価額2500万円の0.4%の登録免許税が発生しますので、その額は10万円になります。不動産取得税は0円です。
一方、贈与の場合は、2500万円の2.0%の登録免許税が発生しますので、計算すると50万円になります。さらに不動産取得税は土地(2分の1の評価額の3.0%で計算)が22万5000円、建物(税率3.0%で計算)30万円で、合わせて52万5000円の税額となります。登録免許税と合算すると、合計102万5000円です。
つまりこのケースの場合、相続による名義変更の場合は10万円で済む税務コストが、贈与の場合は約10倍の102万5000円も発生してしまうわけです(相続税・贈与税を除く。)。
不動産の贈与を行うことで相続税が抑えられる効果があったとしても、登録免許税や不動産取得税で課税がされてしまえば、まったく意味がありません。
しかし、場合によっては不動産の生前贈与が有効なケースもありますので、次回にて詳しく説明いたします。